Bloom ─ブルーム─

1曲目を終えて、汗だくの彼が次に選んだのは学祭の時に私が初めて聴いた曲。

ドラムとギターとベースが待ってましたと言わんばかりに弾ける。

さっきとは打って変わって激しくなった曲調に、前列はノリノリ。

帰る準備をしていたはずの、後ろにたまっていた人達も、手拍子を始めていて。

私も、初めて大樹先輩を見つけた学祭を思い出し、友里亜と顔を見合わせて笑い合った。

会場全体がBloomに夢中になりかけた、その時。

本当に突然。

「大樹君……」

先輩の名前を呼ぶひとつの声が私の耳に届いた。

柔らかな空気の流れが、なぜかその瞬間から変わった気がした。

多分その声に気づいたのは、私を含め近くにいた数人なんだろうけど。

声のした方を振り返ると、そこには私達と同い年くらいの女の子2人組がいて。

「良かった、まだ終わってなかった」って、ステージを見上げてる。

「ナナ」

2人に向かって応えたのは大樹先輩じゃなく、健さんだった。

それまで特別変わった様子は感じられなかったから、ナナさんとの件で揉めることはなかったのかな、と安心していたのに。

また、健さんの瞳に鋭さが戻る。

大樹先輩の目の色も、確実に変化していた。

動揺してるのは明らか。

ステージ上の2人の間で、何かがギスッと鳴って壊れていく。

このどちらかが、ナナさん?

嫌な痛みが、胸を襲う。

もう1度そっと振り返り2人を見ると、ショートの子が、髪の長い子に「ねぇ、ナナ」と話しかけていた。

この人が、ナナさん……。