Bloom ─ブルーム─

「大ちゃん、スーツ似合うし!」

周りの女の子達も、大樹先輩を褒めていた。

いつも平然としてるドラムは、今日はやけに会場の後ろ辺りを気にして視線を送る。

彼女を見てるんだ。

なんだ、可愛いとこあるじゃんって、スイカとメロンの喧嘩を思い出して笑いそうになってしまった。

「えっと、ごめん、予定してた曲を変更します」

突然、大樹先輩はマイク越しにそんなことを言い出した。

「なんでー?楽しみにしてたのにー」

前列の女の子達は、ブーイング。

「ごめん。今日昼過ぎに、ある情報を勇から仕入れて、何かできないかなーと思って。急遽練習したから上手く歌えるか自信ないんだけど。

で、ぎりぎりまで練習して余裕なく家を飛び出したらまさかの忘れ物で」

「大!忘れすぎだから!」

先輩の忘れ癖は知れ渡ってるみたい。

やっぱりね、なんて前例の女の子達が笑ってた。

「本当はライブ前にお茶くらいしたかったんだけど」

そう言って、大樹先輩は私の方に視線を向けた。

ドクンッ。

胸が高鳴る。

暗い客席と相反する輝かしいステージ。

そこに立つ大樹先輩はすごく遠い存在のように思えて。

私達は、芸能人とただのファンでしかなくて。

テレビに映る彼をただ眺めてるような気分になっていたのに。

一瞬で画面の中に引きずり込まれてしまった感じ。

でもこれは、夢みたいだけど、現実。ドクンッドクンッ。

スーツ姿で脚光浴びながら、そんな場所からそんな目で見つめるなんて、これはもう反則通り越して犯罪だ。

身動きが取れなくなるよ。

ドラムの横に立て掛けてあったアコースティックギターを掴む大樹先輩。

それを肩にかける途中、マイクから外した口で彼は何かを呟いた。

視力1.5の私の目に狂いがなければ、その呟きは多分……

『ハッピー バースデー』