Bloom ─ブルーム─

私達は慣れない場所で、前にも後ろにも進めないまま、突っ立っているしかなかった。

学祭のノリともまた違う雰囲気。

後ろの方からタバコの臭いがした。

スモークがかった空気の正体は、これか。

壁際の小さな灰皿を囲んで、吸っては吐くを繰り返すだけの人達が、「見てんじゃねーよ」って顔してこっちを見る。

実際言われたわけじゃないんだけど。

入っちゃいけない大人の世界に足を踏み入れてしまったような罪悪感が襲う。

はぐれないように友里亜のスカートの裾をコッソリ掴んだ時、staffルームから1人の女の人が出てきた。

ショートカットとジーンズがよく似合う人。

「あ、ドラムの人の彼女だよ。今日写真見せてもらったの」

友里亜が耳打ちしてきた。

「そーなの?」

二十歳くらいかな。

女の子からバレンタインのチョコとかもらいそうな雰囲気のその人は、

「タバコ臭っ!未成年いっぱいいるんだから、吸うなら外行きな」

灰皿を囲む黒山をあっさり追い払っていた。

カッコ良くて、強そうなお姉さん。



ッキャーキャーッ

暗くなっていた照明がパッとステージを照らしたかと思うと一気に会場内の熱が上がり始めた。

興奮する女の子の声に応えるように、Bloomのメンバーがステージ横から姿を表す。

山本先輩は友里亜の姿を真っ先に見つけて手を振っていた。

纏ったスーツが、ちょっとしたホストのように魅せる。

大樹先輩はマイクをぽんぽんと叩いて確認。

カッチリしたスーツなのに、わざとネクタイを緩め前ボタンを外して、ラフに着崩した感じが大樹先輩ぽくて、可愛い。