チラッと先輩の手首を見ると、ガッチリした腕時計の周りに焦げ茶色の革ひもがグルグル巻かれている。

私もアクセサリーくらいしてくれば良かったかな。

でも、革ひもの隣でミサンガが揺れてることに気づくと、なんだか胸の内側がポッと温まった感じがした。

つけてくれてるんだ。

ちょっとだけ照れ臭い。

手のひらを上にしたまま、大樹先輩は左手の指先をピクピク動かしていてる。

ギターを弾いてるみたいに。

その度にミサンガが『ここにいるよ』って主張するように揺れる。

「緊張、してる?」

無口な先輩にそっと尋ねてみる。

「ん?あ、ごめん。頭ん中で歌ってた。歌詞飛びそうで。へへ」

「カンニングペーパー作ってあげようか?」

「実は飛びそうなとこ、ここに書いてるんだ」

先輩は手首の革ひもをめくった内側を見せてくれた。

「ぶぶぶっ、ダサっ」

そこにはアリさんみたいな文字がたくさん並んでいる。

だから、グルグル巻きにして隠してるんだ?

「笑うなよ」

「ふふふ、はい。あ、でも、歌詞私わかってるから、飛んだら教えてあげる」

「歌詞全部?」

「はい」

歌う曲名聞いてすぐCD借りてきて、この1週間ずっと聴いてたから、自然と覚えてしまった。

「じゃあ、忘れたら客席にマイク向けるわ」

「ふふふ、はい!」

ニッと笑う先輩は、そっと伸ばした手で私の髪に触れた。

「今日、いつもよりクリクリだ」