「変えたくてたくさん開けたけど、開けなかった時の運命を見てないから変わったかどうかなんてわかんないんだよね。

結局、どうなんだろう?って思ってさ」

「いつ開けたんですか?」

「今年の、春」

そう言ってまた笑う先輩は「里花ちゃんは開けちゃダメだよ」って理不尽な事を言っていた。

それは開けてない人の台詞だ。

「あ、そうだ!」

突然何かを思い出したのか、大樹先輩はギターを床に置くと立ち上がった。

そして、テーブルの下に手を突っ込み、そこからお化けメイクに使ったと思われる絵の具を取り出す。

筆を持ち、ニヒッと嬉しそうに笑う彼。

もしかして?

「しーっ」

人差し指を口元に当て、私を手招きする。

そしてそーっと健さんに近づくと、パレットに作った色をその顔の上に塗り始めた。

口の回りはグレー。大樹先輩がくれたマジックで、私はその上に黒の点々を描く。

鼻を赤くして、ホクロから毛を生やす。

タオルで顔を拭いていたけど、完全に取りきれてない健さんの顔はまだなんとなく青白い。

その上に描いた私達の最高傑作。

「具合の悪い、“変なおじさん”」

「ぷぷぷッ」

「しーっ。笑うなよ」

「だって」

「よし、写メ」

大樹先輩はポケットからスマホを取り出すと、私の隣に座り、健さんをバックに笑顔を作った。

「チーズ!」