男はぼろぼろの服を纏(まと)い、ひとり山道を歩いていた。

着ている服は、もはや服というよりも布切れを重ね合わせただけのひどいものだった。

それに引き換え、髪はきちんと整えられていて、白い顔には無精髭一本もないので、逆に目立つことこのうえない。

そしてなにより、男の瞳には生気と呼べるものがカケラさえも見あたらなかった。

男はゆっくりと一歩ずつ、雨でぬかるんだ土の道を歩いていく。

裸足の足には、一歩進むごとに泥の塊が錘(おもり)のようにこびり付いている。