「悪いが、少しだけ胸を見せてくれないだろうか」

言うが早いか、男の手が白いモヘアセーターの裾をめくりあげようと伸びてくる。

「やめてください!」

力いっぱい、目の前の顔をひっぱたいて駆け出した。

追ってきていないかを確認するために振り返ると、

悲しそうな顔をしてたたずんでいる男の瞳が目に入った。

その瞳に引き付けられるように足を止めかかったが、

遅刻ギリギリなことを思い出して前を向き、そのまま職場まで走り続けた。