武はレイラが戻ってこないことを確かめると、

唯一の家具である箪笥(たんす)の引き出しから、小さな桐(きり)の箱を取り出した。

以前は真っ白であっただろう箪笥は、

今ではタバコのヤニで黄色く変色し、カスタードクリームのような色になっていた。

武は四百年前から色あせることのない桐の箱を大事そうに両手で持ち、

揺らさないように注意しながら、ゆっくりと蓋(ふた)を外した。

中からは、白い綿に包まれた小さな鈴が顔を出す。

鈴自体はとても小さく、銀色に輝いていた。

その鈴の上の部分から、赤い紐が十センチくらい、まっすぐに伸びている。