朝の出勤ラッシュをようやく潜り抜け、長い地下からの階段を上り、

職場に向かって歩いていると、突然目の前に一人の男が立ちふさがった。

「おまえ、千夜(ちよ)か……?」

告げる男の瞳は、まっすぐに顔を見つめてくる。

「違いますけど……」

周りに助けを求めるように視線を動かし、かろうじて言葉を返す。