カウンターの上にグラスを置いて、しばらく悩むように口髭を触っていた男は、

諦めたように大きくひとつため息をついた。

「本当に、ただ会うだけでいいの?」

「はい、お願いします」

必死の形相で頼み込む千珠に、由加里が隣から言葉を付け加えた。

「お願いマスター。この子、毎日朝も昼も夜も探してるんだから。

ペットが逃げ出した飼い主みたいな顔してさ」

「特別だからね。由加里ちゃんだから教えるんだよ。

でも居場所は教えられないから、明日の九時にこの場所に来てくれる?

一応、声はかけておくから。その代わり、断られても俺を恨まないでくれよ」

男は困ったように微笑んで、他の客の方に行ってしまった。

「よかったね?」

由加里が言うと、千珠は黙って頷いた。

その瞳には、小さな小さな涙の塊が浮かんでいた。