「さて、じゃあ話してもらおうかな」

カンパリオレンジの入ったグラスを見つめながら、由加里が言った。

「うん」

小さく呟き、落ち着かないように店内をきょろきょろと見渡してから、千珠が口を開く。

「ねえ、由加里。わたしがお店まで走ってきた日のこと覚えてる?」

「んー、白いモヘアの半そでセーターを着ていた日のこと?」

「そう。あの朝ね、ひとりの男の人に会ったんだ。

その人にもう一度会いたくて探してるんだけど、いないのよ。朝も昼も夜も」

「一目惚れってやつ?」

からかうように由加里が茶々を入れる。