「放してよ」

聞きなれた声を耳にして、武は目の前の路地を曲がった。

悪い予感は外れることなく、落書きだらけの自動販売機の向こう側に、

千華を取り巻く三人の男が目に入る。

十日ぶりに外に出てみたらこれかよ。

武は心の中でうんざりしたように呟いて、周りを見渡した。

運がいいことに男達も千華さえも、まだ武の存在には気づいていなかった。

しかし運悪く、武器になりそうなものは何も落ちていない。

目に付くものは、いくつかのひしゃげた空き缶と、

もうすでに機能するとは思えないような、骨だけになったビニール傘の残骸だけだった。

本当は木刀でもあればいいんだけど。

壊れたビニール傘を手に取り、めんどくさそうに争いの真っ只中に突き進む。