一時間もしないうちに千珠が部屋に来た。

だいぶ息が乱れている。

よほど急いで来たのだろう。

「ごめんね、遅くなっちゃった」

「いや、こっちこそ無理させて悪いな」

武が言うと、ブンブンと千珠が首を振った。

「由加里がね、武の気が変わらないうちにさっさと振っちゃえって」

「そうか。でも、もう一度だけ訊くけど……」

改めて武が訊ねようとすると、にっこり笑って千珠が言った。

「もう決めたから」

「わかった。じゃあ、いいか? 振るぞ」

箪笥の引き出しから出しておいた桐の箱を見つめて言うと、こっくりと千珠が頷いた。

武は桐の箱の中から銀色に輝く鈴を取り出して、赤い紐を指でつまんだ。

そしてゆっくりと横に揺らす……。