「俺だけど」

「武?」

「ああ、今日、こっちに来れるか?」

「うん、仕事終わったあとなら平気だよ。どうかした?」

「鈴、振ろうと思う。でも、本当にいいのか?」

「うん、でも急にどうしたの? 何かあった? 

もしかして、由加里のせい? だったら――」

言葉を続けようとする千珠を遮るように、武が口を挟む。

「いや、そういうわけじゃない。ただ、もうそろそろ過去に縛られるのはやめて、前を向いてみようと思ったから」

「そう、そうだね。あっ、ちょっと待って……」

『今すぐ、行きな!』

受話器の向うから由加里の声が聞こえた。

「ごめんね。今から行けるけど?」

「わかった。待ってる」