「俺はな、こう思うんだよ。記憶にも寿命があるんじゃないかって。

忘れたくないようないい記憶にも、早く忘れたいような悪い記憶にも同じように。

人間の寿命ってのは、大事な記憶が全て無くなったときに終わるのかもな」

武が囁くように言った。

「だとしたら、俺はもう生きていないんだろうな」

そう言った武の瞳からは、何も流れてはこなかった。

何日も日照りの続いた砂漠のように乾ききっていて、

腕に触れる、温かな涙が羨ましかった。