「べつに……わからねーよ」

「そうか」

乾いたように笑って、ジンが瞳を閉じる。

「たまにな、こうして目をつぶると、息子の顔が出て来るんだよ」

武は口を挟むことなく、黙って日本酒を一口飲んだ。

「この傷あるだろ」

ジンが左頬の傷を指で撫でた。

「ある日な、俺の奥さんと息子と、車に乗ってたんだよ。

その日は息子の誕生日でな。遊園地に行きたいって言われて、向かう途中だった。

確か、十歳の誕生日だったな」

思い出すようにジンが続ける。

「久しぶりに取れた休みだった。

息子はずいぶん前から、ものすごく楽しみにしてたんだ。

前の晩なんか、次の日に着ていく洋服まで見せてくれたりしてな」

武は日本酒のビンを取って、ジンのグラスについでやった。

「すまねえ」

ジンが微笑んで、口に運ぶ。

いつものニヤニヤした笑いではなく、父親が子供に向けるような、とてもやさしい種類の微笑だった。