「ああ、そうだな」

武が薄く微笑んでそう返すと、ジンが隣の床をポンポンと叩いた。

どうやらここに座れということらしい。

武はレイラと千華がそばにいないことを確認するように周囲を見回してから、グラスを持ってジンの隣に腰を下ろした。

軽く顔を赤くしたジンが、日本酒の一升瓶を傾けてグラスに注いでくれた。

特にグラスを合わせることなく、二人はしばらく黙って飲んでいた。

するとジンがボソッと話し始めた。

「なぁ、武」

たっぷり十秒ほど置いてから、「なんだ」と小さく答えた。

「記憶が何も無いって言うのは、どういう気分なんだ?」

武の顔を見ることなく、まっすぐに一点を見つめてジンが言った。