廊下から足音が聞こえた。

千華は何度も何度も胸の下を確認しては、そのたびに涙を流していた。

そして今は、ベッドの上から動けないでいた。

会いたくないわけではない。

部屋に来てくれれば……。

心の中で必死にそう願っていた。

自分からあの胸に飛び込むことはできない。

もしそうしてしまったら、きっと言ってしまうだろう。

レイラとした約束を守ることはできなくなる。

だから千華はベッドの上で、静かに耳を澄ませていた。

けれど足音は遠ざかり、廊下にドアの閉まる音が寂しく響いた。

その音を合図に、とまっていた涙が溢れ出す。

濡れた口元からは、嗚咽に混じって彼の名が漏れていた。