「武、ほらあそこ」

千華が指差す先には、カラフルな色で描かれた小さな看板が立っていた。

名刺に書かれていた名前と同じなので、たぶんあそこで間違いないのだろう。

それにしても、あのまま歩き続けていたら、またとんでもない所に行くところだった。

そう思うと、自然にため息が漏れてしまう。

そういえば、結局電話もせずに来ることになってしまったけど、よかったのだろうか。


もしかしたら、迷惑かもしれない。

そんな武の思いなど微塵(みじん)も知らずに、千華は足を速めて武の手を引っぱり続ける。

「はやく、はやく」

「ああ」

千華に引きずられるようにして店内に入ると、

「いらっしゃいませ」

と声がかけられた。

つられるようにその方向に顔を向けるが、声の主は千珠ではなかった。