ドアを押して中に入り、壁際のスイッチをつける。

ベッドにどっかりと腰を下ろしてタバコに火をつけると、千華が灰皿を持って隣に座った。

「何か飲む?」

千華が訊いてきたので軽く頷いて返すと、

「取ってくるね」

パタパタと廊下を駆けていった。

武は千華の後姿をぼんやりと眺めながら、少しだけ微笑み、煙を吐き出した。

モヤモヤとした綿菓子みたいな白い煙は、天井近くまで昇って、見えないブラックホールに吸い込まれるように消え去った。

もう一口吸い込んで、今度はもっと大きな煙を吐き出した。

モコッとした塊は、さっきと同じくらいの場所でまた消えてしまった。

この吸い込まれた煙が空の高いところで吐き出されて、白い雲になるのだろうか?

ずいぶん昔は、本気でそう信じていた。

もちろん今は、科学によって違うことが判明している。

それでも武はどこかで信じていた。

たくさんの思いを乗せた煙が雲になって、いろんな形で空に浮かんでいることを。