携帯電話の番号が書かれた名刺を手のひらに握らせて、千珠は帰っていった。

武が携帯電話を持っていないことを告げると、ひどく驚いて、今度買いに行こうと約束までさせられた。

それでも武は、そんなにイヤな気分ではなかった。

むしろ、どこか嬉しかったのかもしれない。

近いうちに電話することを約束してしまったぐらいだし。

武は白い名刺をジーンズの後ろポケットに入れて歩き出した。

空には月がひっそりと浮かんでいる。

あの月だけが変わることなく、いつも武を見守ってくれていた。