「さぁね? 自分では普通にしているつもりだけど」

「普通か……。

でも、いつも泣きそうな目をしてるように見えたから」

「そうか?」

「あのね、悲しかったらね、泣けばいいんだよ」

子供にでも諭すかのように言って、千珠が微笑んだ。

武は出されたグラスの中のテニスボールほどもある氷の塊を、

指でくるくると回しながらしばらく考えて、

「いいこと教えてやろうか?」

と言うと、千珠が頷くのを待って言葉を続ける。

「涙ってな、涸れ果(は)てるもんなんだよ」

もう、あいつの為に流す涙は残っていないんだよ。

そう言って、悲しそうに武は微笑んだ。