タバコを買いに行って戻ってくると、目の前の電話が鳴り出した。

とっさに受話器に手を伸ばして、耳にあてる。

「もしもし」

「あー、武くん?」

男が言った。

「誰だ、あんた?」

「僕だよ、コットンのマスターだけど」

「ああ、あんたか。レイラならいないぞ」

「いや、君に用があるんだ」

咳払いをひとつして、男が言った。

「この前の女の子、覚えてるかい?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「今日の九時に、店に来てくれるように言伝(ことづて)を頼まれたんだけど、来れるかい?」

「べつにかまわないけど、何の用なんだ?」

武が訊くと、困ったように男が呟いた。

「さぁ? 僕にはわからないよ」