「どーしたの? 遅刻なんて珍しいじゃない」

十時を回った時計の針を見つめながら由加里が言った。

「ごめんね。考え事してたら駅通り過ぎちゃった」

小さく微笑んで千珠が答える。

「うん、別にいいけど。目、赤いよ」

心配そうに、由加里がレジカウンター越しに覗き込んだ。

「ちょっとね」

言葉を濁すように笑顔を作り、

「荷物置いてくる」

千珠はバックルームのドアを開けた。