「千華? どーかしたのか?」

声をかけて近づこうとすると、ゆっくりと千華が顔を上げた。

「たける……」

小さな唇から、震える声がこぼれだす。

そして髪の毛の隙間から見つめる瞳を見て、武は全身に悪寒(おかん)が走った。

「聞いたのか……?」

武の言葉に、千華がぎこちなく頷く。

二つの潤んだ瞳は、そらされることなく武に向けられていた。

「気持ち悪いだろ?」

ぶらりと垂れ下がっていた右手を、自分の頬に当てて呟いた。

千華は何か言いかけるように口を開き、またすぐに口を閉じる。