あの頃…

「立花、どこに行ったか知ってますか」

先ほどの患者を見送り、ICUを回って、さて自分も上がろうかと思った矢先

ふとあの姿が見えないことに気がついた

いつも彼女が座っている席は綺麗に片づけられていた

でも、帰る姿は目撃していない

あの偶然以来鉢合わせする回数が増えた屋上にも姿はなかった

「立花先生ならさっき上がったわよ」

ついでに言うと今まで話をしていた

神宮寺の言葉に海斗が小さく眉を寄せた

「あいつ、今日当直じゃなかったでしたっけ」

「ああ。顔色悪かったし、休ませた方がいいという私の判断よ」

今のしるふにあの患者の死は堪えるだろう

「立花が?」

それを受け入れて黙って帰ったと?

あの休憩時間も図書館に入り浸っているしるふがか

「ええ。どうかした?黒崎先生」

「…いや、」

一度言葉を切って、ふと考えるそぶりを見せたのは、一瞬

「なら、良いです。俺も上がります」

お疲れ様です