「可愛げのある女なんて願い下げなくせに」

ふわりと香るカモミールの淡い香り

力を入れれば折れてしまいそうでそっと力を込める

傷つかないように、大切に、そっと

吹き抜ける風は優しくて、刻まれる時間はとってもとってもゆっくりだ

響くのは、二人分の笑い声

もう追いかける背中は遠くない

手を伸ばせば届いて、名を呼べば待っていてくれる

繋がれた手は、自分のもより一回りほど大きい

優しくひいてくれるこの手にいつか追いつけるだろうか

「黒崎先生」

自信を持って彼の隣に並べるだろうか

「言い忘れてました」

振り向いた海斗の瞳は漆黒

「お帰りなさい」

「ただいま」

その瞳が一瞬ののちに優しさを宿す

「俺も一つ言い忘れてた」

この瞬間は、たぶん何年たっても忘れない

色あせることもない

音もなく夕日が沈んでいく中で

優しく風が吹く中で