そういって顔を上げれば、漆黒の瞳が静かに見下ろしていた

ああ、本当にきれいな瞳だな

何にも染まらない漆黒は、先なんて見えないのにどこまでも透き通っているような気がする

そのまま沈黙が流れる

一瞬にも、数分にも思える沈黙

それを破ったのは、腹に響く大きな音と夜空を染める色とりどりの

「あ、…花火」

そう、花火

真っ暗な夜空によく映える

「かなりいい頭金だろう」

「はい!!」

満面の笑みで頷いて、再び花火を見るしるふに海斗の優しい瞳が向けられていたことを、

彼女は知らない

「でも、なんで花火上がるんですか」

花火って夏の風物詩じゃないですか

「さあ。毎年上がるから深くは考えたことがなかったけど」

よく考えれば不思議だ、と今更になって思う

「でも、いいですね、冬の花火」

「冬の方が空が暗いからな」

より一層花火が鮮明に綺麗に見えるのだろう

「まあ、寒いのが難点だが」

ぼそりとつぶやいた海斗が、実は寒がりで極力冬は外出を控えるのだということを知ったのはそれから少したってからのこと