アパートに着いて車を降りると、うちのドアの前にひとりの男の人が立っていた。



「…リキ?」



母がそうつぶやいたとき、その男性がこちらを向いた。
私たちの存在に気付くと、男性はアパートの階段を駆け下りて母の元へ走った来た。
母もその男性に向かって走ると、思いっきり抱きついた。



「リキヤっ!どうしてここに?」

「桜にメールしただろ?行くって」

「え、見てない…」



男性は少しチャラチャラした感じ。
ピアスとかジャラジャラしてて、黒のスカジャン。

もしかして、いや、もしかしなくてもこの人、旦那さん…。



「桜、その子は?」



男性が私の方を向いてそう言ったとき、母がマズイって顔をした。



「あ、その子は…し、親戚の子供!今日だけ預かってって頼まれて…」

「ふーん、それにしては桜に似てる気がするけど…可愛くて」

「もぉ~、リキヤ~」



今痛感した。上村愛生はもう、存在しないんだと…。