優しい人はすごく苦手。
その人の顔が見れなくなる。“ありがとう”の簡単な5文字を言えなくなる。
お願い、私を見ないで―――きれいなあなたの目を、私で汚したくないの。
「あ、俺、吉岡礼央って言うんだ。よろしくな」
その言葉に、私は会釈をした。
よしおか…吉岡くんって……。
『ちょっと、吉岡君の彼女だからって調子乗ってんじゃないわよ』
そうだ、原田さんの彼氏だ。
確かに屋上で会ったときも吉岡くん以外に女の子が居た。
あれは原田さんだったんだ。
だったら尚更私のところに居ちゃいけない。
「吉岡くん、原田さんの所に行ってあげたほうが…」
「なんで?」
「なんでって…原田さん、私をかばったせいで目を付けられましたよ。今頃なにされてるか…」
「梓は上村みたいに弱くない」
またそれ。
わかってる。でも、もう今更遅い。
一度受け入れたいじめは相手が飽きるまで受け入れるしかないんだ。
反抗したら、悪化するだけ。

