「カバン」 降ろして、って叫ばれるとでも思ったのだろう。 彼は少し戸惑ったあとで、戻ってカバンを拾ってくれた。 そのまましとしと降る夕暮れの雨の中、あたしは彼にしがみついたままあのバーの部屋に連れて行かれた。 不審者だったらどうしようとか、血だらけだし危ないやつだろうとか。 すでに自分の存在価値を捨ててしまったあたしには、そんな疑問など一つも浮かばなかった。