おうちにかえろう




「…帰るの?歩き?」



あたりが漸く静けさに包まれたころ、黒髪様にそう問われて、視線を移した。


まん丸の大きな黒目に捕まって、つい逸らすタイミングを逃してしまった。


こうして隣に並んで見上げると益々大きく感じるな。


身長何センチくらいあるんだろう。





「はい、帰ります。歩きです」



コクン、と頷いてそう答えると、黒髪様は「ふーん」と言って笑った。




「俺も歩き。家どの辺?」


「○○町の1番shotっていうパチ屋があるんですけど、そのあたり…あ、黒髪様の家からかなり近いとこです」


「あ、そう。じゃあせっかくだから一緒に帰ろう」


「えっ」



「何、やなの?」




じとっと睨まれたけれど、即否定した。


嫌なわけじゃない。


ただびっくりしただけ。


まさかそんな風に言われるとは。




「女の子の夜の一人歩きは物騒だからねー、おじさんが守ってやろう」




…おじさんて。


そんな歳じゃないでしょう。


どう見ても、20代前半なのに。





「…大丈夫です私強いし」


「空腹で倒れてたやつに言われても説得力ねぇ」



…仰るとおりです。





「まぁいいじゃん。とりあえず行こう」




断る理由も、特になくて。


黒髪様の優しい笑みに引っ張られるようにして、半歩後ろを歩き出した。