確かに、空腹で倒れるってよっぽどだもんな。
なぜそこまでに至った?と疑問を持つのが自然だ。
でも、その理由は出来れば説明したくないのだ。
本当は、助けていただいたんだから、話さなければいけないのかもしれないけれど、それでもやっぱり話したくない。
だから、黒髪様が意外にあっさり引いてくれて、助かった。
「…ああ、お疲れ。上がりなの?」
―――22時過ぎ。
バイトを終えて家に帰ろうとしたら、出入り口を出たところで丁度黒髪様と遭遇した。
帰りがけに挨拶に行こうと思ったらもう居なくて、「忙しそうだから声かけないで帰ります。今日は本当にありがとう」という伝言を、店長からいただいた。
そのせいですっかり気が抜けていたせいか、顔を見た瞬間に拍子抜けしてしまった。
「…、お疲れ様です。何かすいませんバタバタしててろくにサービスも出来ずに。黒髪様も今お帰りですか?」
「うん。明日早いからほどほどに」
あれ、そういえば、お連れの方は…
「次行くぞ次!!朔!!」
やっぱり酔っていらっしゃいますね。
大分おかわりされてたみたいだから。
「いかねーよ。明日も早いっつってんだろ。さっさと帰って寝ろ」
「つまんねーこと言うなよ!!ついてこい!!地球の裏側までついてこい!!」
「…。●●町1丁目のコーポ○○までお願いします」
「いやっっ!!止めて!!朔ちゃんと離れたくないの!!」
酒癖悪いのだろうか。
黒髪様に無理矢理タクシーに押し込まれて、いいタイミングでドアが閉まった。
「朔ちゃんの浮気者―――!!」
謎のセリフを残して去って行ったお連れ様の乗ったタクシーを、見えなくなるまで見送った。
…何となく。
(なぜおねえキャラ…)
予想通り、酔ったら更にすごいテンションだったな。
