パっと顔を輝かせた少女は、すぐに覚悟を決めたように頬を引き締めた。
「私…
私、帰りません。」
表情もなく自分を見るマリーを強い眼差しで見つめ返し、少女はキッパリと言い切った。
「お兄さんは私を買ったンでしょう?
時間はかかるかも知れないケド私、ちゃんとお返しします。」
『自分を買った』というマリーを通して、己の価値を見出だそうとしているのかも知れない。
長年の隷属状態による依存癖は根深い。
本当は、売買はもう完了している。
少女が差し出したティッシュの代金として、マリーが少女を檻から救ったのだから。
でもそれは、まだ言わないほうがいいだろう。
『買われた自分』という新しいアイデンティティーの核を、いきなり崩壊させてしまう。
少女は大きな一歩を踏み出した。
自ら新しい環境に飛び込んだのだ。
逃げ出さず。
死を選ぶことなく。
ボロボロで、ゾンビで、死兆星が見えそうな病人の中身は、マリーが思っていたよりも強かったようだ。
ここからは、ゆっくりでいい。
穏やかな生活の中で自分を見つめ直し、世界を見つめ直し、いずれ一人で真っ直ぐ立てるように…
環境は最悪デスケドネ?
なんせ保護者は殺し屋だしネ?