アンジェラが目を丸くしている。
少女が初めて見せた、子供らしい笑顔だったのかもしれない。

マリーは俯き、ウェーブのかかった髪で顔を隠しながら、唇の左端だけを歪めて笑った。


「どーするか決めたンか?」


ソファーにちゃんと座り直したマリーが、自分の前の席を少女に指し示しながら問うた。


「帰ンの?」


鋭い視線が少女を刺す。

少女は軽く唇を噛んでから、勧められたソファーには座らずマリーの目の前に立った。

怯むことなく、ナニカを確かめるようにマリーの目を見つめ…


「鼻血のお兄さん…ですね?」


小さく問い掛けた。



『鼻血のオニーサン』て…
『体操のオニーサン』のノリ?

うん。
間違いなく俺だわ。

てか、覚えてたンだ?
一分に満たない出逢いだったのに?

そんなにインパクトあったか?
鼻血垂れ流す男が?

少女は期待と緊張に満ちた眼差しで答えを待っている。

アンジェラは横を向いて必死に笑いを堪えている。

深い溜め息を吐いたマリーは、仕方なく頷いた。