「やっぱり虐待なの…
あんなになるまで、誰も気づかないなんて…」


一瞬の沈黙の後、クリップでまとめていた髪をほどきながらアンジェラが呟いた。


「いや、少なくとも、近所のヤツらは気づいてた。」


無言で眉を吊り上げたアンジェラに、マリーは皮肉な笑みを見せる。


「触らぬ神に祟りなし、だってさ。
我関せずってのが、賢い生き方らしーゾ?」


アンジェラの顔が、汚物でも見たかのように険しく歪む。
だがすぐに、マリーと同じく冷ややかに笑った。


「それもそうね。
じゃ、マリーはバカってワケだわね。」


「殺すゾ、コラ。
乗りかかった船ってダケだ。
鼻血のせいで、な。」


「鼻血のせいで、よく泥舟に乗ってるわよね、アンタって。」


アンジェラの冷たい笑みが、楽しげな心からの笑顔に変わる。

それを横目で見ながら、マリーはソファーから立ち上がった。


「今夜は俺がメシ作るわ。」


「やめて。
キッチン炎上させる気?」


アンジェラは本気で怯えた。