音を立てないように、そっと扉を開ける気配がした。


「生きてる?」


空から視線を逸らさないまま、マリーが口を開いた。


「大丈夫よ。落ち着いたわ。」


その言葉を聞いて深い溜め息を漏らしたマリーは、やっと振り返った。

だがリビングに入ってきたアンジェラの声と表情は硬い。


「かなり酷い肺炎だわ。
もう少し遅かったら、手の施しようがなかった。」


アンジェラはマリーの隣に腰を下ろした。
膝に置かれた拳は、関節が白くなるほど握りしめられている。


「あのコ… なんなの?」


掠れた声を絞り出したアンジェラの唇は、震えていた。


「身体中、ドコもカシコも傷と火傷の痕だらけ。
今だって、足の甲を不全骨折してる。
ヘッタクソな縫合痕なんて、絶対医師の仕事じゃないわ。
それにあんなに弱ってるのは、肺炎のせいだけじゃないの。
元々の栄養状態が」


「買ってきた。
ガキの父親から。」


頭に血が昇りすぎていつまでも喋っていそうなアンジェラを、マリーの短い言葉が黙らせた。