緊張に身を強張らせながら、マリーがキーを回す。
ガチャ…
(なんだ… 開くじゃねぇか…)
家中真っ暗だが、変わった様子はない。
放り出されている荷物もない。
マリーは安堵の溜め息を吐きながら、物音を立てないよう細心の注意を払って鍵を閉めた。
よかったぁ…
それほど怒ってないのカナ。
でも、寂しがってはいるカナ?
まだしばらく猶予があるのだから、二人の機嫌が直るように…
そーだ。
旅行にでも行ってみようか。
その合間に、二人の今後のための諸々の細工や手配をして。
希望があるなら、なんだって聞いてやって…
アンジェラは、いい医者になるだろう。
己の身よりも目の前の命を優先する、優しい男なのだから。
菜々は…
イイ女になンだろ、な‥‥‥
ずっと、見守っているから。
もう会えなくても。
ずっと、ずっと。
でも、あと少しだけ。
夢の中にいさせて‥‥‥
自室に入ったマリーは切なげに目を細め、ドアを閉めた。
‥‥‥その直後。
二つの部屋で小さなアラーム音が鳴り、すぐに消えた。
アラームを消した一人は、ニヤリと笑って再びベッドに潜り込んだ。
もう一人は…
行動を開始した。