「ベッドに。」


長い金髪を一つにまとめながらそう言ったアンジェラを見て、マリーは目元を和ませた。

煎餅をかじりながら昼ドラを観る主婦の風情は消えた。

ソコにいるのは、頬を引き締めた凛々しい医者。
命を救うために闘う者。

命を奪う殺し屋とは、真逆の…


「ゲストルームに入れる。
必要なモノがあれば言え。
すぐに調達する。」


「了解。任せて。」


キビキビと動きだしたアンジェラの頼もしい背中を見て、マリーは安堵の溜め息を吐いた。

腕の中の子供が助かる確率は、格段に上がった。

後は…

リビングの奥にあるゲストルームのドアをやっぱり足で開けたマリーは、そこにあるクイーンサイズのベッドに、そっと小さな身体を横たえた。

ピクリとも動かず、ヒューヒューと不規則なか細い呼吸を繰り返すだけの、今にも失われそうな生命。

マリーはボサボサの髪に触れ、身を屈めて子供の耳に唇を寄せた。

その手は、優しい。
だが、獣のような眼光は変わらない。


「おまえも闘え。
死ぬ気で生きろ。」


低く囁いたマリーは、部屋を後にした。