青白い月に照らされて。

死神は悠然とビルの外階段を上る。
そしてなんの躊躇いもなく、ドアノブに手をかける。

開いている。

『ただいまー』
なんて言いそうなほどフツーにドアを開け放ったマリーの目に映ったのは、前方にある二つの扉。

確認した間取図によると、片方はトイレのドア。
片方は一階の駐車場に下りるための階段に繋がるドア。

事務所の入り口は…と。

マリーが左側へ視線を移すのと ソコに立っていた男が声を上げるのとは、ほぼ同時だった。


「遅かっ‥‥‥ え?」


ガァン…

南無阿弥陀仏。

胸から血を噴いて倒れた男は、コートのポケットから引き抜かれたマリーの右手がナニを握っていたかも、理解できなかっただろう。
己の死を、自覚する暇もなかっただろう。


「ナンダ?! 今のは?!」


「なんの音だ?!」


騒然となる事務所内。

出来たてほやほやの死体の襟首を片手でひっ掴み、その上半身を持ち上げる。

マリーは誰かが様子を見に出てくる前に自らドアを開けて死体を投げ入れ、悲鳴と騒動に紛れて自分の身体も事務所の中に滑り込ませた。