いつもなら、暖かい部屋で美味しい夕飯を食べ終えているであろう時間。

マリーと菜々は物陰に身を隠しながら、漁港の倉庫に紛れて建つ細く小さなビルを見上げていた。

…鼻血はもう止まってマス。

街灯も少ない。
人気もない。
冴え冴えとした月明かりが、寒さを否が応にも際立たせる。

なんつーか… ほんとに日本?

ビートルは離れた場所に停めてきた。

だって…
違和感ありすぎなンだもん。
ドッカで軽トラでもブン奪って来りゃよかった。

まぁ、そんな余裕なかったケドネ?

真っ直ぐココまで車を飛ばしたおかげで、相手との差は随分縮まった。



嘘デス。
訂正シマス。

差が縮まったのは、菜々のおかげ。

彼女のナビは完璧だった。

パソコンを片手に渋滞を避けつつ、別ルートを叩き出しつつ、アンジェラを追う。

その指示には一片の迷いもなく フロントガラスを見つめる横顔は自信に満ちていた。

ビックリするわ。
別人か。

いや、これが本当の菜々。

このくらいの決断力と行動力がなければ、12にして自分の傷を自分で縫ったり出来ないだろう。