でもね?

感動してる暇も感慨に浸る暇もナイからネー?

胸の奥深くに息づく原因不明の熱と疼きを押し殺し、唇の端だけで笑ったマリーは菜々の頭に軽く手を置いた。


「ナンもねぇよ。」


そして、彼女の横をすり抜けて歩みを進め、自室に入る。
焦りを悟られないよう、ゆっくりと。

菜々の見せた覚悟には驚嘆した。
心配する気持ちもわかる。

だが、巻き込むワケにゃいかねぇだろ、コレ。

菜々の話で、拉致されたオ○カルがアンジェラであることはほぼ確定的となった。

目的が人身売買であれなんであれ、大の大人を拉致するなら人目につきにくい場所や時間を選ぶのが普通だ。

なのに犯行は、付近の主婦が目撃するような夕方のコンビニ前で行われた。

要するに、狙われていたのだ。

遠出もするし帰りが遅くなることもある『女』のアンジェラではなく、ごく稀にあのコンビニに出没する『男』のアンジェラが。

それに、死亡フラグ‥‥‥

アンジェラには心当たりがあったのだろうか。
自分の身に起こるコトを、予感していたのだろうか。

だから、プレゼントだなんて言って…

マリーは鈍く光る黒い塊を、トレンチコートのポケットに滑り込ませた。