主婦に気づかれないようなゆっくりした速度で、マリーの身体が一回り縮んでいく。

サングラスを取ると、そこにはいつでも微笑んでいるように見える糸目。


「ナニか事件でもあったンですかぁ?」


猫背で気の弱そうなオニーチャン『タナカ シュウイチ』は、間延びした話し方で井戸端会議に割り込んだ。

いやぁ…

さっき『ババァ!』とか暴言吐かないで良かったよ。
俺、グッジョブ!

マリーの変貌に一瞬怪訝そうに顔を見合わせた主婦たちも、糸目につられて笑顔を見せた。


「あらあらぁ。
オニーサンの家、近いの?」


「この辺も最近は物騒よね。」


前置きはもうイイよ。
本題に入れ、クソババァ。

おっと、失礼。
美しい奥様方。


「今もね、マツモトさんが誘拐現場を見ちゃったらしくて。」


「でもぉ…
ハッキリ誘拐かどうかは…
チラっと見たダケだし。」


悠長だな、おい。

こりゃ、通報なんてしそうにねぇな。
ニュースになってから『実はあの時…』とか言って騒ぎだす、野次馬タイプか。