さっきまでとは打って変わった上機嫌な様子で、住人は立ち上がった。
ゴミや空き缶を蹴散らしながらいそいそと玄関に向かう。

無精髭を撫でながらドアを開けると、猫背でひょろりとした気の弱そうな男が立っていた。

オドオドしながらも、男は身分証を提示する。

名前は、タナカ シュウイチ。


「幾ら出るンだ?
手続きって、ハンコ押しゃいいンだろ?」


「額は審査で決まりますから…
お子さんの所在の確認を…」


「あぁん??!!」


チラリと部屋の奥に視線を送った住人は、意外と長身な猫背男を睨み上げて威嚇した。


「学校行ってンだよ!!
当たり前だろーが!!」


「あっ あのっ じゃあ…
一緒に生活されてる様子だけでもぉ…
上がらせていただいても…?」


青ざめて震えながらも職務を全うしようとする男を、住人はジロジロと眺めた。

子供には会わせられない。
ゴミだらけで、育児の『い』の字も感じられない部屋を見られるのも、都合が悪い。

だが追い返してしまっては、金が入るのが遅れる。

借りた金の利息の期限も迫っているし、もう安い第三のビールなんて真っ平だ。

早く、旨い酒が呑みたい…