「あそ。
おまえも、もう少し休め。」


マリーは踵を返してリビングを出ようとした。


「あ…
待ってクダサイ!」


小さな声が背後からかかり、菜々が小走りに寄ってくる気配がする。

肩越しにチラリと振り返ったマリーは、菜々の白い手が迫ってくるのを見て、さりげなく身を引いた。


「あ…」


触れることを拒まれたと敏感に察した菜々が、慌てて伸ばした手を引っ込める。


「どした?」


マリーの問い掛けは、いつもと変わらない。
菜々を見下ろす眼差しもまた。

なのに…
ナニカが違う。

二人の間に見えない壁がある。


「あ… あの…
ありがとうございました。
私、また助けてもらって…」


菜々は震える声でなんとか言葉を紡いだ。
その瞳は戸惑いに揺れ、訊ねるようにマリーを見上げていて…


「別に… 礼を言われるようなコトしてねぇよ。」


マリーは菜々から目を逸らしながら言った。