一瞬の沈黙。
そして、おずおずと掛けられる声。


「あのぉ… 役所の者デスが…」


「コッチにゃ用はねぇンだよ!!
帰れ!!」


低く威圧感のある声は、住人の男の武器だ。

大声で喚きたて、まくしたて、気に入らない者を脅す。
大抵のヤツは怯え、震えながら尻尾を巻いて退散する。

それでもダメなら、ちょっと暴れてやればいい。
たいした威力はなくても、生温い世界で生きてるヤツらには充分な脅威となるのだ。

今までその住人は、この方法で邪魔者を黙らせ、ことごとく排除してきた。

だが…


「あのぉ… あのぉ…
この度、父子家庭にも助成金が出る制度が出来まして…」


今日の訪問者は、まだ逃げ出さない。
いかにも弱々しいカンジなのに…

いやいや、待て待て。


「金?」


目を輝かせた住人は、ドアを振り返った。


「ハイ、そのぉ… 手続きを…
お子さん、おられますよネ?」


「あぁ、いるいる。」