bloody mary


さっき殴られた時よりも鈍い音がして‥‥‥

父親が菜々の視界から消えた。

驚く暇もなく助け起こされ、強く抱きしめられる。

この腕。
そして、この香り。


「…マ リ ゼッ さ‥‥‥」


菜々はガタガタ震える腕をマリーの背に回し、彼のコートを握りしめた。


「一人にして悪かった。
ゆっくり息を吐け。」


耳元で聞こえる、心地好く響く低い声。
背中を撫でる、大きな手。
心配そうに揺れる、サングラスの中の優しい瞳。

息を吸え、ゆっくり吐け、時間をかけろ、吸え…

マリーの言葉に合わせて呼吸を繰り返していると、恐怖も痛みも薄れていく。

この人の傍にいないと、息も上手く出来ないようになってしまったのだろうか?

どうしよう…
一生一緒にいられるワケじゃないのに…


「よし、もう大丈夫だ。
俺が傍にいる。」


またチクリと胸が痛んだが、それでも菜々は安心しきって目を閉じた。

今だけ… 今だけは。
その言葉に甘えさせて…

菜々の伏せられた睫毛の下から 一粒の涙が零れた。