菜々は浮き草のように力なく、父親に腕を引かれるまま足を一歩踏み出した。
希望を見出だしてしまった分、絶望はより深い。
『いらないコ』ではなくなったかも知れない。
でも『金になる肉塊』に変わっただけ。
愛されてなどいない。
(そっか…
お父さんにとって、私は家畜なンだ…)
前は金にならない家畜だった。
だからエサも満足に与えられず虐げられてきた。
今は成長し、金になる家畜に変わった。
だからまた、ドコカに売られて‥‥‥
菜々の胸に、数少ない学校での思い出が蘇る。
あれは小学校の音楽の時間。
みんなが歌っていた。
子牛が売られていく物悲しい歌を。
ドナドナドーナードーナー…
「グズグズすンな。
ほら、早く行こう。」
魂が抜けたようにボンヤリ立ち尽くす菜々を振り返り、苛立ちを隠しながら父親が言う。
機嫌を伺うような、猫撫で声。
でももうわかってる。
ソレは愛でも優しさでもない。
子牛を大人しくさせて、荷馬車に乗せるため。
ドナドナドーナードーナー…



