愚かで憐れな希望だ。
人の性分など、簡単に変わるものではないというのに。
だが、菜々がそんな儚い希望に縋ってしまうのも、致し方ないことかも知れない。
彼女は15年間、ずっと父親の愛を求めてきたのだから。
愛を求めるが故に、暴力を耐え忍び、従順を貫いてきたのだから。
「お父さん… 私…」
「菜々、おまえ今、ドコの店に出てるンだ?
それとも、あの男の愛人やってンのか?」
「え?」
「俺、金に困ってンだよ。
なぁ?
お父さんのためにも、稼いでくれるよな?」
一瞬キョトンとした菜々だったが、その間抜け面のままみるみる青ざめていく。
菜々にはそーゆー経験は皆無。
だがマリー曰く『無駄に大人の階段を登っちゃってる』ため、父親の言葉の意味を全て理解できた。
どんな『店』かも。
ナニをして『稼ぐ』かも。
全て、理解してしまった…
「ほら、行くゾ。
もっと稼げるトコロに連れてってやるから。」
もう一度…
いや、何度でも売り飛ばすために、父親は娘の腕を強く引いた。