(本当にシアワセ…)


コンビニに走っていくマリーを見送った菜々は、熱くなった頬に両手を当ててビートルにもたれた。

こんなに美しい光景が、世の中にはあったンだ。
こんなに楽しい時間が、世の中にはあったンだ。

穏やかで安らぎに溢れた毎日。
目眩がするほど幸せなひと時。

自分にはもったいないくらい。
本当に夢のよう…


(…夢だったりして…)


菜々の胸に不安がよぎる。

こんなのは都合のイイ夢で。
目覚めると、そこはあのジメジメした狭い押入れで。

いつもあたたかい笑顔で包んでくれる人は消えていて。

檻をこじ開け、強引に、でも限りなく優しく、今まで知らなかった世界に連れ出してくれた、大好きなあの人も…

こんな風に考えてしまうのは、初めてのコトではない。
菜々は本当は、いつだって不安なのだ。

ナニも持っていなかったから、今、手にしている全てがどれだけ大切なモノかがよくわかる。

それが消えてしまったら。
ナニカの小さなキッカケで、失ってしまったら。

あの暗く恐ろしい檻の中に連れ戻されてしまったら‥‥‥


「菜々か…?」


嗄れた声が聞こえて菜々が顔を上げると、そこには『檻』が立っていた。